
2025年2月11日、ABB FIAフォーミュラE世界選手権 2024/2025シーズン 第二戦メキシコシティE-Prixが行われた。予選からポルシェが1-2を占め、レースもポルシェを中心としたレースが行われたが終盤のセーフティーカーで状況が一転。アタックモードを残していた日産のオリバー・ローランドが3台をオーバーテイクし今季初優勝を飾った。

レーススタート
2位のアントニオ・フェリックス・ダ・コスタがポールのパスカル・ヴェアラインよりわずかに良いスタートを切ったものの、ヴェアラインが先行。トップグループでは当初順位に変化はなかった。ジャン=エリック・ベルニュがオリバー・ローランドに先行して3位に続いたが、ローランドはわずか1周でベルニュをパスした。その後にジェイク・デニス、マックス・ギュンター、ミッチ・エバンスが続いた。混乱は特になかったが、ダン・ティクタムがスタジアムセクションにてマセラティのジェイク・ヒューズに追突され、最下位へと落ちた。
最初の数周は、ポルシェの2人のドライバーが隊列を組んで先行。ダ・コスタが僅差で追ってくるローランドからの攻撃を耐える展開が続いた。その後、最初のドライバーたちがアタックモードに入ったが、トップ10の中で入ったドライバーは居なかった。メキシコの狭いコースでは、サンパウロよりもアタックモードの効果が少なく、マクラーレンのテイラー・バーナードも前のニック・デ・フリース(マヒンドラ)をオーバーテイクする事は叶わなかった。
上位グループでは、ローランドとベルニュが3位争いを続けたが、ドライバー全員が最初の10周はペースを落としてあまりリスクを冒さなかった。またエドアルド・モルタラ(マヒンドラ)はパンクによりピットインを余儀なくされた。これはマクラーレンのサム・バードに追突された事が原因であり、バードには5秒のタイムペナルティが課せられた。
ジェイク・デニスがトップへ
14 周目の終わりから状況が変わり始めた。ヴェアラインが最初にアタックモードへ入り後退。ダ・コスタとローランド選手に先行された。その後ジェイク・デニス(アンドレッティ)もアタックモードへ。
ここでオリバー・ローランド、ダ・コスタをオーバーテイクし、アタックモードの効果でトップに立っていたパスカル・ヴェアラインへ追いついた。そして16 周目に、デニスはスタジアムセクションにてパスカル・ヴェアラインをオーバーテイク。これが事実上初のリーダー交代となった。
ダ・コスタは17周目に最初のアタックモードを起動。ベルニュ、ローランド、チームメイトのヴェアラインをオーバーテイクした。その後ダ・コスタはデニスにプレッシャーをかけ、19周目にオーバーテイクしトップに立った。2つのアタックモードのうち最初のアタックモード後のトップ4はダ・コスタ、デニス、ウェーレイン、ローランドであった。
ニコ・ミュラー(アンドレッティ)2回目のアタックモードへ入ると、ローランドはすぐに4位へ交代せざるを得なくなった。20周目に、ヴェアラインがトップグループで最初にアタックモードを起動。最初はミッチ・エバンス(ジャガー)の後ろの5位に後退した。1周後、デニスが反応し、2度目のアタックモードを起動。ミュラーはチームメイトのデニスを先に行かせ、しばらくヴェアラインを食い止めた。
セーフティーカーが出動し、ローランドに勝利の光が見え始める。
22周目にはトップ3がアタックモードに。デニスがダ・コスタとヴェアラインをリード。1周後にダ・コスタがデニスをオーバーテイクしトップへ。その後ヴェアラインもプレッシャーをかけ、ついに24周目の9コーナーでデニスをオーバーテイク。これでポルシェワークスが1-2となり、2台のアンドレッティを先行。アンドレッティはポルシェのカスタマーチームであり、ポルシェパワートレインが1-2-3-4を独占する形となった。1周後、デニスは「左フロントタイヤがダメになった」とタイヤの摩耗を訴えた。これが、ダ・コスタとヴェアラインに先行された理由だろう。
27 周目、ローランドはミュラーから 4 位を奪還。その後方ではDSペンスキーが続き、ベルニュがギュンターの前にいた。その後、デビッド・ベックマン(クプラ・キロ)がゼイン・マローニ(ローラ・ヤマハ・アプト)と接触。12 コーナーの出口でストップした。ここでセーフティーカーが発動となった。日産のローランドは、アタックモードに入ったばかりで 5 分ほど残していたことから不運なタイミングと思われた。またDSペンスキーの2台もアタックモードを無駄にした形となった。
しかし予想よりも速くセーフティーカーが終了。ローランドのアタックモードが約 70 秒のタイミングで再スタートとなった。31 周目の再スタート後、ローランドはすぐにデニスを捉え、1コーナーで追オーバーテイク。その後すぐにヴェアラインもオーバーテイクし、ついには12コーナーでトップのダ・コスタもオーバーテイク。ローランドがレースリーダーとなった。
エバンスがクラッシュし、再びセーフティーカーが出動。
数秒後、セーフティカーが再び出動。11コーナーの出口で、ミッチ・エバンスが急遽スローダウンしたミュラーに追突してしまった。この時、ミュラーの車はトラブルにより急にパワーカットが入ってしまっていたのだ。これにエバンスが追突。開幕戦の勝者は、ここで姿を消す事になった。
セーフティーカーは長くは続かず、33 周目に再開された。先頭のローランドは、後ろの 2 台のポルシェよりもエネルギーが 2% 近く少ない状況であった。
ローランドはエネルギー不足にもかかわらず巧みなドライブで先頭を走りづづけ、ダ・コスタも仕掛ける事ができなかった。ダ・コスタは最終ラップでアタックしたものの、ローランドはうまく立ち回り、最後まで守り切り優勝。2024年のロンドンE-Prix以来、キャリア4勝目を挙げた。ダ・コスタはチームメイトのヴェアラインを抑えて2位でフィニッシュした。
ダ・コスタは2度の2位表彰台により、フォーミュラEのシリーズランキングで首位に立った。オリバー・ローランドはミッチ・エバンスと並んで2位。パスカル・ヴェアラインは4位。チームランキングではポルシェがチームの中で首位であり、ポルシェはメーカー選手権でも首位に立っているが、日産との差はわずか2ポイントだ。

オリバー・ローランドのコメント
「メキシコでの勝利を非常に嬉しく思います。ここには熱いファンがおり、素晴らしいスタジアムがあり、勝ちたいと思っていたコースです。チームの戦略がうまく機能しましたが、セーフティーカーのタイミングが悪く、ちょうどアタックモードを起動したところでした。しかし、幸運にもレース再開後に約1分の追加パワーが残っていて、オーバーテイクに向けてここで決めるという気持ちで攻めました。デュエルで小さなミスがあったのですが、チームのためにこの勝利を得ることができて、信じられない気持ちです。」
トマソ・ヴォルペ(日産フォーミュラEゼネラルマネージャー兼日産フォーミュラEチーム チーム代表)のコメント

「日産にとって非常に重要な市場であるメキシコにおいて、応援してくれているファンの前で勝利できたことはチームにとって最高の結果です。ローランドは残りの数周で見事なオーバーテイクを成功させ、素晴らしい走りを見せてくれました。ナトーも良いスピードを見せましたが、予選でのチームが犯したミスによりスタートポジションを下げてしまいました。これには謝罪しなければなりません。このスタートポジションが、レース全体を通して堅実なドライブを見せたにもかかわらず、大きな影響を与えてしまいました。しかし、全体としては満足しており、今回のパフォーマンスは残りのシーズンに向けて大きな自信になります。」
セーフティーカーのタイミングで物議
ローランドの勝利に大きく貢献した後半のセーフティーカーであるが、これには物議が醸し出されている。レースディレクターのスコット・エルキンスが、セーフティーカーのレギュレーションを無視したと言われているのだ。これはポルシェフォーミュラE代表のフローリアン・モドリンガーがe-Formula.newsに対し発言した。
「セーフティカー後の再スタートについては、レースディレクターの指示により、ターン12と13の間に『Safety Car In This Lap』という指示が出されなければならない。同時に、セーフティカーのライトは消えなければならない」と、質問に対し、フロリアン・モドリンガーは再スタートのプロセスを説明した。「セーフティカーがターン12と13の間にいたとき、ライトはまだ点灯しており、キロの車(デビッド・ベックマン)はクレーンで吊り下げられていました。テレビ画像(下記の写真を参照)では、セーフティカーがライトを点灯したままターン13を通過しているのがはっきりとわかります。」

「実際、レースディレクターがセーフティカーを導入できる最終地点は、彼自身の文書によると、ここです。」とモドリンガーは続けた。「『Safety Car In This Lap』というメッセージがレースディレクターから出されたとき、隊列はちょうどターン17の手前でした。つまり、実際にはそれ以降セーフティカーを戻すことは許可されていませんし、戻すべきでもありません」
したがって、再スタートを遅らせてローランドのアドバンテージを奪うことは、ポルシェにとってもはや不可能だった。「ローランドにはまだ1分30秒の攻撃モードが残っていたが、(この時点では)フィニッシュライン前に1分30秒のタイムを縮めることはできません」とモドリンガーは説明する。この時点で、トップのポルシェドライバー2人にとって、レースは事実上すでに負けていた。
「ゆっくりとフィニッシュラインまで走り、その後加速する場合、四輪駆動はトラクションの優位性が非常に高いため、ローランドはスタートフィニッシュストレートですでに前方の3台すべてを追い越しているでしょう。」とモドリンガーは、この戦術の可能性も否定している。「そのため、コーナーから素早く抜け出すために、ターン19の真ん中まで加減速を混ぜました。そうすることで、スタートフィニッシュストレートでのトラクションの優位性がそれほど決定的ではなく、ローランドがターン1までに追い越せるのは最大でも1台だけになります。」
「それがうまくいきました。」と彼は再スタートで戦略が正しいと認めた。「しかし、その後、ローランドが極度のリスクを冒したため、非常に困難なものになりました。彼はターン4でパスカルを攻撃したが、パスカルはターン5でラインをキープして守ることができませんでした。アントニオもシケインで守ることができず、ローランドが内側から追い抜いきました。」
「非常に残念です。セーフティカーも不運で、出動も不運でした。」とモドリンガーは総括する。「レースディレクターが自分の指示を守らなかった理由を知りたいです。全体的に見て、セーフティカーは我々にとって最悪のタイミングできました。不運でした。だが、次回は我々が恩恵を受けるかもしれません。」
次のレースは2月14日と15日に、サウジアラビアのジェッダにてダブルヘッダーとして開催される。これはF1で使用されているコースの短縮レイアウトになる予定だ。
メキシコシティE-Prix総合結果
P | Driver | Pts | Laps | Total Time | Gap | to prev. | Best Lap |
1 | Oliver Rowland | 25 | 36 | 0:48:21 | – | – | 01:13.629 |
2 | Antonio Felix da Costa | 18 | 36 | 0:48:21 | 0.4 | 0.4 | 01:13.668 |
3 | Pascal Wehrlein | 18 | 36 | 0:48:23 | 1.855 | 1.455 | 01:13.675 |
4 | Jake Dennis | 13 | 36 | 0:48:23 | 2 | 0.145 | 01:13.552 |
5 | Jean-Eric Vergne | 10 | 36 | 0:48:24 | 2.965 | 0.965 | 01:13.775 |
6 | Maximilian Günther | 8 | 36 | 0:48:24 | 3.507 | 0.542 | 01:13.661 |
7 | Stoffel Vandoorne | 6 | 36 | 0:48:25 | 4.491 | 0.984 | 01:13.824 |
8 | Nyck de Vries | 4 | 36 | 0:48:26 | 5.164 | 0.673 | 01:13.852 |
9 | Nico Müller | 2 | 36 | 0:48:27 | 6.07 | 0.906 | 01:13.863 |
10 | Jake Hughes | 1 | 36 | 0:48:29 | 8.564 | 2.494 | 01:13.955 |
11 | Robin Frijns | 0 | 36 | 0:48:30 | 9.305 | 0.741 | 01:12.912 |
12 | Nick Cassidy | 0 | 36 | 0:48:32 | 10.821 | 1.516 | 01:12.661 |
13 | Norman Nato | 0 | 36 | 0:48:32 | 11.073 | 0.252 | 01:13.274 |
14 | Taylor Barnard | 0 | 36 | 0:48:33 | 12.234 | 1.161 | 01:12.921 |
15 | Zane Maloney | 0 | 36 | 0:48:36 | 15.277 | 3.043 | 01:14.431 |
16 | Dan Ticktum | 0 | 36 | 0:48:36 | 15.693 | 0.416 | 01:13.155 |
17 | Sebastien Buemi | 0 | 36 | 0:48:41 | 19.806 | 4.113 | 01:12.547 |
18 | Sam Bird | 0 | 36 | 0:48:42 | 21.329 | 1.523 | 01:15.142 |
19 | Edoardo Mortara | 0 | 36 | 0:48:45 | 24.044 | 2.715 | 01:13.290 |
20 | Lucas di Grassi | 0 | 36 | 0:49:01 | 39.841 | 15.797 | 01:13.432 |
DNF | Mitch Evans | 0 | 30 | 0:40:00 | – | – | 01:14.136 |
DNF | David Beckmann | 0 | 27 | 0:34:29 | – | – | 01:14.633 |
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